2012/12/29

親へのインタビュー


私たち二人は、アイタビとしてお話をお聞きする活動をしていますが、インタビューは、見知らぬ人にだけ行うものではありません。

親から話を聞くというのも、とてもおもしろく、有意義なものです。

私の感覚では、あらたまって問いかけることにより新鮮な回答が返ってくることが多いと思います。

案外、近くにいながら、親については知らないことが多いものです。
自分が生まれる前の親についてはなおさらです。

インタビューの中で、親という役割の顔ではなく、一人の人間としての表情を垣間見ることができるかもしれません。
「親と子」という関係だけでなく、「人間と人間」という関係になる瞬間があると思います。
「親と子」という関係からは感じることのない感情が生まれることもあるでしょう。

インタビューは、話す方もなんだかうれしい気持ちになりますし、聞いている方も心が暖まってきます。
話のきっかけは難しいですが、やってみると、いいものだなぁと感じていただけると思います。

時間としては、落ち着いて話すなら20~30分くらいがいいかなと思います。
また、食事中でも同席者が話を聞くことができる人であれば、話の中でインタビューしてみるのもいいと思います。


質問項目としては、例えばこんなものがあります。

・今までで一番ハッピーだった日はいつですか?

・思い出に残っている人はどんな人ですか?

・思い出に残っている食べ物はありますか?どんな思い出ですか?

・10代~20代の若い人(または30代)へのメッセージはありますか?

インタビューが終わったら、どんな話だったかを聞き手が話してあげると、お互いに確認にもなりますし、クールダウンにもなります。

二人だけの状態で聞いた話は、二人だけの秘密にしておくのがよいでしょう。

この年末年始、親御さんと話す機会がありましたら、何か一つでもご質問してみていただければと思います。
聞いたことのある話かもしれませんし、もしも聞いたことのない話が出てきたらもうけものです。
言葉のお年玉ですね。

2012/01/21

末長有遠さん

話者:末長有遠さん

30年間程の長い間、中学校の教師をされています。その間、学校付属の施設の担当もされ、多くの生徒を指導してこられました。約3時間という長時間でしたが、終始楽しくいろいろなお話をお聞かせいただきました。

インタビュアー:やまうちまさき、ゴトウハヤト

お話いただいた【一番のテーマ】は次のようなものだったと思います。
「自分が夢中になれる楽しいことをやろう。あなたはあなたの人生を生きなさい。他人から評価されることだけをやっていては、さみしい。」このテーマを、いろんな角度からお話しいただきました。

【今まででいちばんハッピーだった日】
子どもが生まれた時や教員採用試験に受かった時はうれしかった。ただ、小学校時代のお城や軍艦を木で作っていた時は三度の食事を忘れるほどに夢中になった。幸せな時間だったと言えると思う。木の部品を自分で作って、組み立て、最後は完成したお城を「炎上」といって燃やした。大人になってから、プラモデルを作ったことがあるが、誰かの設計図通りに作っているようで、そこまで楽しむことはできなかった。

【教えることについて】
昔は、学校で教えるということは、ブロイラーをつくることかと虚しさを感じたこともあった。しかし、今は、学校で教えるということは、「自信をつけさせる」ということだと考えている。小学校では小学校なりの自信をつけさせて、中学校に送り出す。中学校・高校も同じ。自信をつけさせるためには、生徒とのフランクな話し合いが必要だ。ただ、自信といっても、それぞれ得意分野がある。そして、得意分野が見当たらない子もいる。ある年の卒業の日に、そんなおとなしかった子が、小さな折鶴をくれたことがあった。今でも、その折鶴の意味を考えることがある。

【親と子について】
子どもが何をやっても「親に愛されている」と感じること。その感情が親子の人間関係の基礎やと思う。そして、親子の人間関係はすべての人間関係の基礎となる。かといって、親が関わりすぎるのもよくない。親が必要以上にかまうと、その子の原体験を奪うことになる。考え方が古いかもわからんけど、小学生の間はいっぱい遊んでいろんな原体験を積めばいい。「それだけじゃ生きていけまへんがな」って言われるけど、できたら、それが理想やな。
子どもには、貴重な経験、多様な経験、感動する経験、人を信頼することをしながら成長していってほしいなぁと思う。自分の子どもに対しても。

【人生の転機】
40歳の頃、二度、インドのバラナシあたりを旅した。インドは、異文化だった。交通機関の時間は大きくずれる。亡くなった方の葬り方は火葬したり、そのまま川へ流したりする。「no problem・we are friend・you are good businessman」、という三つの言葉。そして、市場などで見たインドの子どもの笑顔。
異文化に触れた後に日本を考えると、時間通りに動く日本は時間に縛られているように感じた。インドの子どもはすごいパワーをもっていた。それが、日本では失われているのではないかと感じた。日本の生き方が全てではないということに気づき、生き方を考えるようになった。

【評価中心の社会について】
今の社会は、評価が溢れている。学校でも仕事でも、人は評価されている。人を評価するということは、人を商品化しているということだ。「人材」という言葉はまさしく、それを表している。人からの評価だけを基準に生きていると、人から無価値と評価されたとき、つらい。
人の集まりには、「戦う集団」と「村」の二つの面がある。「戦う集団」においては、能力が高い人が求められる。
しかし、「村」という、一人一人の人間が生活する部分もある。人から無価値だと評価されても、人は生きていかなければならない。評価だけを基準に生きていることに無自覚な人が多いと思う。

【奇人変人について】
理屈を言う人がいるが、人間関係は理屈ではない。いいことをいう人の話を聞くより、はたから見たら普通とは思えないことを楽しんでやっている人の話を聞きたい。テレビを見ていて、大きな軍艦模型を作ったり、庭にお城を作ったりしている人の気持ちがわかる。20年前から京都で座禅をしているが、いろいろな人に出会った。山奥で自給自足の生活をしている人がおられるが、生活に満足されている。
他人からの評価をつきぬけた生き方は幸せではないか。世の中の意見にふりまわされずに、やりたいことをどれだけやれるかが幸せにつながるのだと思う。

【若い人へのメッセージ】
外に出て異文化を知りなさい。自分とは違う人間に出会いなさい。安全なところから外にでて、壁にぶつからないとわからない。行動し、命をはった経験が原体験として、自分のものになる。人がはだかになった時、残るのは原体験。小学校の頃は、いっぱい遊んで、体験して感動してほしい。小学校の頃から教室の中で勉強して東大に行ったとしても、国をひっぱることができるのだろうか。
自分自身も、何かやってみようと思って、四国遍路をやっている。開始前は思いもよらなかったが、四国遍路を始めて、「人を信じられる」場面に多く出会った。苦しんだり楽しんだりする中で、感じる事がある。


一問一答
Q.座右の銘は?
なし。誰かの言葉は関係なく、自分らしく生きることがいいと思っている。

Q.座右の書は?
ベルグソン、法然・親鸞の鎌倉時代の仏教に関る本。

(インタビューここまで)

やまうちまさきの感想
末長先生は、終始、生き方についてお話いただいたように感じます。「他人にケチをつけるのは、自分に納得できていないから。」というお言葉は、まさしく自分にあてはまることで思わず苦笑いしてしまいました。

そのほかにも、ときどき、ドキッとするようなことをおっしゃって、自分の未熟さを指摘されたようにも感じました。ただ、こういった指摘を受けられるのも、お話を聞きに行ったという行動の結果であるので、末長先生はそういった経験をせよとおっしゃっているのだと思います。

初対面にもかかわらず、包み隠さず、フランクにお話いただいたことに本当に感謝いたします。これから、やりたいことをやって社会から奇人変人と呼ばれたとしても、末長先生は喜んでくださいそうです。

やりたいことに向かってがんばろうと思えたインタビューでした。ありがとうございました。

ゴトウハヤトの感想
急なお話だったにもかかわらず、本当に気前よく長時間お話にお付き合いくださいました。ご自宅にお邪魔し、(勝手に)くつろいだ気分で楽しくお話をお聞きすることができました。

インドのお話、原体験のお話、教育が果たすべき役割のお話・・・いろいろなお話が出たのですがどれも面白く、そして、すべてのお話が「自分が納得できるように、生きたいように生きなはれ」というひとつのところにつながっているということも感じられ、とてもわかりやすかったです。

先生というご職業柄か、お話がわかりやすかったことも印象的でした。

僕はよく、「会社の要請や社会からの期待に応えることで、キャリアアップしていく」という、「上に上に」という考え方や合理性を追求する考え方をついしてしまいしがちなのですが、それは先生の言う「世間からの評価を得る」ということだな、とも思います。もちろん貢献することも大切だし、先生が言うように、人を評価をし、人から評価されることで経済活動が成り立つという面もあるのですが、それだけがすべてだと思うと、いつまでも満足できない、納得しない生き方にもなりそうです。「役に立っても立たなくても、アホなことでもいい、自分の好きなことをやる」という時間をもっと取れるようにしたいと思います。

また、今回の末長先生とのお話では「子ども」の教育のお話が出ましたが、いまは、子どもだけでなく、大人の中にも「自信を失っている人」「豊かな原体験を得られていない人」が多いのかなと思います。

自信がないから、人からの評価を得るためにがんばる→人からの評価ばかりを追い求めるうちに自分にとってうれしいことが何かわからなくなる→貴重な原体験から遠ざかる→満足が得られなくなる→さらに自信がなくなる、といったサイクルや、人からの評価ばかりを追い求めるうちに疲れる→仕事もそれ以外のこともほどほどで済ますようになる→さらに自信がなくなる、といったサイクルに陥る人もいるのではないかと思います(私自身にもその傾向があります・・・)。そういう大人たちに対しても、「自信をつけさせてあげること」「原体験の機会を得やすくしてあげること」も、ひとつ必要なことなのかもなぁと思いました。先生とお話をしているだけで意欲がみなぎってくるので、大人にも、こういうつながりがもっとあるといいなと思います。

僕も去年ぐらいから座禅や仏教の勉強をし始めていて、末長先生の考え方はそのあたりともつながっているように感じました。僕自身、座禅や仏教についてもっともっと知りたいと思いました。

(インタビュー日 2012.01.07)